深夜3時、客がいなくなった店内でマスターに話を聞いた。FogはソファでDotと並んで眠っていた。真司さんはカウンターの向こうで、静かにグラスを磨いていた。

バーテンダーだった20年

真司さんは20年間、都内の一流ホテルでヘッドバーテンダーを務めていた。深夜の客を誰より近くで見てきた人間だ。

「バーでは酒を出して客を救う仕事をしていた。でも深夜に本当に必要なのは、酔いじゃなかった」

そう気づいたのはいつ頃かと聞くと、少し間があった。「ずっと前から、わかってたと思う。でも答えを出すのに時間がかかった」と真司さんは言った。

オーナー・れおさんのこと

LOST & STAYにはオーナーがいる。真司さんをここへ引き込んだ張本人だ。

「本人は『れおれおって呼んで』って言うんですよ」と真司さんは少し笑った。「でも私はれおさん、って呼んでます。なんとなく、そっちの方がしっくりくるので」。

れおさんはオンラインでも活動していて、オフ会で初めて顔を合わせた人には「え、女性だったんですか!?」とよく驚かれるらしい。真司さんも最初はそのひとりだった。

「画面の向こうのイメージと全然違って、正直びっくりしました。でもそのギャップがれおさんらしいというか、面白いなと思って」

そのれおさんから声をかけられたのは、真司さんが少し迷っていた時期のことだった。

「悩んでるなら、カフェのマスターやってよって言われたんです。突然すぎて、最初は冗談かと思いました」

でも話を聞くうちに、本気だとわかった。深夜に疲れた人が来られる場所を作りたい。犬がいて、コーヒーがあって、何も聞かれない場所を。それがれおさんの構想だった。

「私がずっと考えてたことと、重なってたんです」と真司さんは言う。だから断れなかった。

なぜ犬だったのか

犬を選んだ理由を尋ねると、真司さんは少し考えた。

「犬は何も聞かない。何も言わない。ただそこにいる。深夜に疲れた人間が必要なのは、そういうものだと思った」

Fogは真司さんが6年前から飼っている。Dotは3年前、迷い込んできた犬だ。「名前はDotにした。小さな点みたいな存在だけど、ちゃんとそこにいる。それがいいと思って」。

深夜だけ開く理由

昼は開けないのか、と聞いた。「昼間は別の場所がある。でも深夜には、ここしかない人もいる」と真司さんは答えた。それだけ言って、またコーヒーを淹れ始めた。

取材を終えて店を出ると、まだ外は暗かった。深夜のLOST & STAYはまだ灯っていた。れおさんが思い描いた場所は、ちゃんとここにあった。