閉店後、FogとDotの散歩をするのは蓮さんの役割だ。毎朝5時、営業が終わるとすぐに準備をして、まずFogのリードをつける。Dotはその間、ソファの上で蓮さんを目で追っている。

「なんで別々なんですか」と聞いたら、蓮さんは少し考えてから答えた。

「Fogのペースに合わせたいんです。Dotと一緒だと、どうしてもDotのペースになるから」

Fogと歩く、朝5時の街

5時の渋谷は静かだ。まだ人もほとんどいない。Fogは急がない。ゆっくりと、においを嗅ぎながら歩く。立ち止まる。また歩く。蓮さんはそれに合わせて、ただ隣を歩く。

「急かしたことは一度もないです」と蓮さんは言う。「Fogが止まったら、僕も止まる。それだけです」。

Fogの大きな体が、朝の光の中でゆっくり動く。蓮さんはその隣で、何か考えているような、何も考えていないような顔をしている。哲学専攻の大学院生が、朝5時に犬と歩いている。不思議な光景だと思った。

Dotと歩く、別の朝

Fogを送り届けた後、今度はDotのリードをつける。こちらは全然違う。

Dotはぐいぐい引っ張る。小さいのに力強くて、止まらない。好奇心が体の外に溢れ出ている感じがする。

「Dotと歩くと、なんか元気になるんですよね」と蓮さんは笑った。「Fogと歩いた後だと、特に」。

FogとDotを別々に連れていく理由は、ペースの違いだけじゃないかもしれない。それぞれの時間を、ちゃんとあげたいのだと私は思った。蓮さんはそういうことを、言葉にしない。ただやっている。

哲学より、5時の散歩

帰ってきた蓮さんに「散歩しながら何考えてるんですか」と聞いたことがある。

少し間があって、こう言った。

「哲学の授業より、Fogと歩く5時の方が、何か考えさせられる気がします」

それだけ言って、コーヒーを淹れ始めた。Fogはソファに戻って、またすぐ眠った。Dotも丸くなった。深夜のLOST & STAYは、朝になっても静かだった。